総合診療科

4 犬アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは、アトピーとしての特徴的な症状がみられ、皮膚に炎症や掻痒を伴う皮膚疾患です。遺伝的素因を背景に多くの場合は環境アレルゲンによって起こります。アトピーとしての特徴的な症状とは、発症年齢が6か月~3歳齢で季節性があり、口囲、眼周囲、耳介、肘窩、腋窩、鼠経、指間などに痒みを伴う皮疹が認められる症状です。

アトピー性皮膚炎は急性期(皮膚の痒み 紅斑:赤み 丘疹などの症状)と慢性期(脱毛 潰瘍 苔癬化 色素沈着などの症状)に分けられます。

もともと皮膚は外部の物質から身を守る作用があります。これは皮膚バリア機能と呼ばれ、この機能が低下することにより、皮膚にアレルギー物質が表皮内に侵入することがアレルギー発症のきっかけと言われています。また、皮膚バリア機能が低下することで、2次的に皮膚感染症などが併発します。

診断

アトピー性皮膚炎は「検査で陽性だからアトピー性皮膚炎」と診断できる検査はありません。したがって除外診断(他の疾患を除外する)により診断することになります。

  • 膿皮症(皮膚細菌感染)マラセチア皮膚炎を除外する。
  • 外部寄生虫症(疥癬やニキビダニ症など)を除外する。
  • ノミアレルギー皮膚炎を除外する。
  • 食事アレルギーを除外する。

除外診断をしっかり行うには非常に時間がかかります。特に食事アレルギーを除外する検査は除去食試験という検査で、8週間かかります。そこでFavrotにより提案された症状による診断基準というものがあります。

  1. 発症年齢が3歳齢未満
  2. 屋内飼育
  3. 皮疹を伴わない痒み
  4. 前肢に症状がある
  5. 左右耳介に症状がある
  6. 耳介辺縁に症状がない
  7. 腰部背部に症状がない

  この7項目のうち5項目を満たせば特異度83.0%、6項目満たせば特異度93.7%の可能性でアトピー性皮膚炎が疑われます。。

犬アトピー性皮膚炎の診断は、除外診断、Favrotの判断基準、治療による反応によって診断されます。

● 犬アレルギー検査(特異的IgE検査 リンパ球反応検査)について

 犬アレルギー検査は偽陽性や偽陰性の割合が低くないため、犬アトピー性皮膚炎を診断する検査ではありません。上記に挙げた診断でアトピー性皮膚炎と診断がついた場合、そのアレルギー物質が何の可能性が高いかを見る場合、減感作療法(アレルゲン特異的免疫療法)を検討する場合に行います。

治療

犬アトピー性皮膚炎の治療は、急性期と慢性期によって治療法が少し異なります。

急性期

  • 外用ステロイド製剤:局所病変に対し効果を発揮します。長期にわたる使用は皮膚を委縮させますので、症状の改善が見られれば塗布の回数を減らしていく必要があります。
  • ステロイドの内服投与:即効性があり全身的に作用します。病変が広範囲の場合に選択されますが、副作用(肝障害 ホルモンの異常など)が起こる場合があります。なるべく用量や頻度を漸減し、止める場合も徐々にステロイドの量を漸減する必要があります。
  • オクラシチニブの内服:即効性があり短期間の使用では副作用は生じにくいです。

慢性期

  • 外用ステロイド製剤:急性期度治療と同様。皮膚萎縮が懸念される場合はタクロリムス軟膏を選択する場合があります。症状が改善した場合に維持治療としてプロアクティブ療法(週2回の治療を行い再燃を抑えていく治療)を行います。
  • ステロイドの内服:急性期の治療と同様
  • オクラシチニブの内服:急性期の治療と同様
  • シクロスポリンの内服投与:長期投与が可能ですが、即効性はありません。効果が認められるまで4週間ほどかかります。投与によって嘔吐を起こす場合があります。
  • インターフェロンγの投与:週3回の皮下注射を4週間行う必要があり、その後週1回に減らしていきます。副作用はほとんど報告されていませんが、費用が高額になり、通院も大変になります。
  • シャンプー療法 保湿剤の使用
  • アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法):ハウスダストマイトに対しアレルギーが発現している場合に選択されます。週1回の皮下注射を5回もしくは6回投与します。副作用はあまり報告されていませんが、やや費用が高くなります。

 

犬アトピー性皮膚炎は完全に治ることはあまりありません。良い皮膚の状態をどのようにして維持して行くかが重要になります。根気強く付き合っていきましょう。