犬の予防医療

犬の予防医療

近年、人の動物に対する考え方が変わってきており、ペットから人生のコンパニオン(伴侶)やファミリー(家族)であるといった関係に変わってきました。これらの愛すべき動物を、少なくとも予防できる病気で死に至らしめる事がないようにしていきましょう。

ワンちゃんが行わなくてはならない予防としては、混合ワクチン、狂犬病ワクチン、フィラリア予防、ノミダニ予防があげられます。

 

混合ワクチンについて

ワクチネーション(ワクチン接種の方法)が、2007年に世界小動物獣医師会のワクチネーションガイドライングループによって発表され、近年、日本でもこのガイドラインが取り入れられてきました。当院でもこのガイドラインを取り入れてワクチネーションを行ってまいります。

混合ワクチンの中で、犬ジステンパーウイルス、犬パルボウイルス2型、犬伝染性肝炎ウイルス、犬アデノウイルス2型の4つをコアワクチンとし、それ以外のウイルス(パラインフルエンザ、レプトスピラ症、コロナウイルス感染症)をノンコアワクチンと分類しました。
コアワクチンの接種は3年に1回の接種に変更されました。
ノンコアワクチンについては従来通りの毎年接種が必要です。また、子犬時期のワクチネーションも変更しました。

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ワクチンで防げる病気

混合ワクチンは以下にあげた伝染病を予防するワクチンで、非常に重要な予防です。中には死に至る病気もありますので、必ず接種するようにしてください。

犬ジステンパーウイルス感染症(CDV)
モリビリウイルス(パラミクソウイルス科)で、空気感染、飛沫感染で伝染します。
感染から約1週間で症状が発現します。発熱、下痢、呼吸器症状、神経症状などを起こし、死亡率も高い病気です。治っても色々な後遺症が発現することがあります。

犬パルボウイルス感染症(CPV-2)
犬パルボウイルス2型による感染症で、感染している動物の糞便から経口感染します。
血液が混じった下痢や嘔吐を起こし、伝染性が強く死亡率も高い病気です。また、子犬では突然死を起こすこともあります。

犬伝染性肝炎ウイルス感染症(CAV-1)
犬アデノウイルス1型による感染症で、感染している動物の唾液や糞便に排出されたウイルスの、経口・経鼻感染により伝染します。
肝炎を主体とした嘔吐や下痢、食欲不振などが起こり、目が青白く濁ることもあります。

犬アデノウイルス2型感染症(CAV-2)
犬アデノウイルス2型による感染症で、感染経路はCAV-1と同じ経路になりますが、症状は呼吸器疾患を引き起こします。

犬パラインフルエンザウイルス感染症(CPI)
犬パラインフルエンザウイルスの単独の感染では、ほとんど症状は認められませんが、他のウイルスやマイコプラズマなどの細菌と混合感染を起こし、犬感染性気管気管支炎(ケンネルコフ)として重篤な呼吸器症状を呈します。
感染は接触伝染性で、通常は4〜7日で発症します。

犬コロナウイルス感染症(CCV)
犬コロナウイルスによる感染症で、主な感染源は糞便です。
通常は不顕性感染(感染しても症状が出ない)ですが、ストレスなどで散発的に嘔吐や下痢が発症します。

レプトスピラ症
レプトスピラ属の病原菌が原因で、主として急性の腎炎、肝炎、脈管炎を引き起こす全身性の感染症です。感染源は感染した動物の尿、流産後の排出物や感染胎児、精液、又はこれらに汚染された土壌や水です。レプトスピラは血清型でいくつかに分類されており、それぞれの血清型に対してワクチンが必要になります。一般的にはLeptospira canicola, L icterohaemorrhagiaeの2つの血清型が多く認められます。ワクチンの種類によってレプトスピラは2種〜5種混合されています。

レプトスピラ症のワクチンは、他のワクチンに比べて副作用が多く見られますので、感染の可能性を考えて投与します。また免疫の持続期間が短いため、毎年の接種が必要になります。

 

ワクチン接種後の注意点

  • 本剤投与後、2~3日間は安静に努め、過激な運動、入浴シャンプーは避けること。
  • 本剤投与後、希に一過性の局所反応、疼痛、嘔吐下痢を認めることがあります。
  • 注射後に過敏な猫ちゃんまれにアレルギー反応(顔面腫脹、掻痒、蕁麻疹等)あるいは
  • アナフィラキシー反応(虚脱 貧血 血圧低下 呼吸促迫 震え等)が起こることがあります。

 

狂犬病ワクチンについて

狂犬病は人畜共通伝染病で、感染すると人も100%死亡する恐ろしい病気です。
狂犬病ワクチンは狂犬病予防法により、全ての犬に接種が義務付けられています。
生後91日以上の犬は、飼い始めてから30日以内に1回、その後は毎年1回の接種を受けなければなりません。
また、ワクチン接種により交付された注射済票を必ず犬につけておかなければなりません。
生涯に1回の登録と、年1回のワクチン接種を忘れずにお受けください。
当院では、保健所への登録、注射済票の交付の届け出を、代行して行っております。

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日本では感染が報告されていませんが、海外では発症例が毎年報告されており、船や飛行機で旅行などがしやすくなった分、いつ日本に狂犬病に感染した動物がきてもおかしくない状況です。(上の図、ピンク色が多発国、赤が発生国、青は発生がない国)

 

フィラリア予防について

フィラリア症は蚊によってうつる伝染病で、心臓にそうめん状の虫が寄生し、咳、呼吸困難、吐血、腹水などの症状が見られ、治療しなければ死にいたる病気です。
感染した場合には、外科的に寄生虫を摘出する手術や長期の内科的治療が選択されますので、予防により感染を防ぐことが重要になります。
今はいい薬があり、一ヶ月に一回お薬を飲むことで予防できます。毎年、5月から12月まで飲ませてください。
その年、初めての投薬前には血液検査が必要です。フィラリアに感染しているワンちゃんに予防薬を飲ませると、ショック症状を呈することがありますので注意してください。

 

ノミ マダニ予防

都内は動物密集地域のためノミも多く、夏場などは1回散歩に行くだけでも1〜2匹のノミの感染を受けるでしょう。ノミの感染を受けるとアレルギーを起こし皮膚病になったり、お腹に虫が寄生(条虫症:サナダムシ)することがあります。
ノミの寄生は春から秋にかけて多くみられますが、冬場でも見られますので、1年を通して予防することをお勧めします。犬猫に寄生するノミは人間にも吸血します。
ノミの予防法については獣医師にお尋ねください。

 

無麻酔歯石除去

ワンちゃんネコちゃんの歯石除去は、全身状態を確認後、麻酔をかけて行うのが一般的です。なぜなら、ワンちゃんネコちゃんはおとなしく我慢して口をあけていてくれないからです。
時間をかけて正確に行うことで、歯の裏側や歯周ポケットなどの汚れや歯石を確実に除去し、また安全に行うことができるのです。また表面の目立つ歯石を取ってしまう事で細部を見逃してしまい、結果的に悪化することもあります。「日本小動物歯科研究会」「アメリカ獣医歯科学会」も無麻酔歯石除去については否定的な見解を発表しております。

しかし、歯が悪くうまくご飯が食べられないにもかかわらず、高齢、心臓が悪いなどの理由から麻酔をかけられず、歯周疾患については放置されているケースも見られます。
無麻酔による歯石除去はメリットとデメリットがあり、当病院で行うべきかどうか非常に判断に苦しむ問題であると思われます。

当病院では歯周病の程度と麻酔に対するリスクを考慮したうえで、ワンちゃんネコちゃんが性格的に問題ないと判断した場合に限り、無麻酔による歯石除去を行います。
無麻酔歯石除去をご希望の方は診察時にお尋ねください。